『Life Across Hokkaido: From Woods to Waters』展 インタビュー

現在、木ギャラリーで開催中の『Life Across Hokkaido: From Woods to Waters』は、写真を愛する仲良し夫婦二組による共同展示です。普段の日常生活ではお目にかかれない、北海道の野生動物が見せた貴重な一瞬や、海の中の神秘を捉えた美しくも、逞しい写真の数々を、お愉しみください。北海道の大自然を舞台にした全20作品は、陸上の野生動物写真10点、そこから水中写真10点へと流れるように繋がり、同展示会を通じて刻一刻と変化する北海道の自然の厳しさ、また自然を守るべく私たちの使命をも思い起こさせてくれます。

自然写真家夫婦 ”蝦夷っち”こと「佐藤 晃さん&るりこさん」ご夫妻と、水中写真愛好家「平本 健太さん&美智子さん」ご夫妻へのインタビューで、作者と作品の魅力に迫ります。

1. これまでの写真家・アーティストとしての歩みはどのような道のりでしたか、そして、北海道の野生動物また海の中の風景に注目するようになったきっかけは何ですか?

平本 健太: わたしは10数年前、知人の誘いで写真サークルに所属し写真撮影を本格的に始めました。たまたま同じようなタイミングで、家内の美智子の誘いでスキューバ・ダイビングも始めました。潜ってみると写真撮影とスキューバ・ダイビングとは相性が良く、最初は単なる「思い出の記録」のために撮っていた水中写真が、今ではすっかりダイビングの目的になってしまいました。

平本 美智子:わたしは30年以上前からスキューバ・ダイビングを楽しんできましたが、水中撮影にはまったく興味がありませんでした。ところが、夫と一緒に(半ば嫌々)受講した「水中写真セミナー」で、素敵な1枚を撮ることが出来たことがきっかけで水中写真にハマってしまいました。今回の写真展にも出展した「アツモリウオ」をドラマティックに撮影することが、今の目標です。

佐藤 晃&るりこ: 写真に興味を持ったのは佐藤晃が約30年前、さとうるりこが約40年前スキューバ・ダイビングを始め感動した世界を写真に残したく水中写真を撮り始めました。 その後「エゾフクロウ」の出会いから野鳥・野生動物にも興味を持ち、水・陸と撮影した期間もありましたが、併用する時間が持てず、北海道の野生動物の可愛さ・生きるための逞しさに感動したままを作品にしたく陸上のネイチャーフォト活動をしております。

2. 二組のご夫婦がこの展示会を共同制作することになった経緯、また『Life Across Hokkaido: From Woods to Waters』は何がきっかけとなり生まれたテーマですか?

平本 健太&美智子: 佐藤ご夫妻とは以前から一緒に飲んだり歌ったり撮影をしたりする仲で、今回ご夫妻から共同展のお誘いを受けました。佐藤ご夫妻に較べると撮影歴も実力も未熟なわたしたちが参加することは少し躊躇しましたが、このような貴重な機会を逃してはいけないと考えました。佐藤ご夫妻はしばらく前に水中写真を「引退」し、今では陸上のネイチャーフォトを専門に撮影しています。そこで、佐藤ご夫妻が陸上の作品を、われわれが水中の作品を出展することで、北海道の自然の豊かさ・素晴らしさを表現したいと考えて今回の企画が生まれました。

佐藤 晃&るりこ: 北海道の自然をご宿泊のお客様に楽しんで観覧していただく為、水陸の写真を以前から木ニセコギャラリーでと考えておりましたが、私たち夫婦は既に水中撮影を「引退しており」、長年お友達として交流のある平本夫婦が素晴らしい水中写真を撮っていた為お声掛けし、さとうるりこの兼ねてからの希望が実現いたしました。

20枚の写真を共有しタイトルは平本健太様から何例かご提案頂き4人で話し合い作品にピッタリするタイトルを選びました。

3. この写真展で取り上げた撮影の場所、被写体、テーマはどのように選びましたか?

平本 健太&美智子: 今回は作品展のテーマ上、選ぶべき作品が「北海道の水中写真」に限定されていましたので、北海道らしさと四季を意識して作品選びをしました。単に美しい水中写真というよりは、何らかのメッセージ性や意外性あるいは、驚きを含む作品を選んだつもりです。

佐藤 晃&るりこ: 厳しい冬を生きる逞しい姿と可愛らしい野生動物を冬の北海道に遊びにいらしたお客様に楽しんで鑑賞して頂けるように、日本古来から伝わる京色紙掛を額とし、それにあったプリント紙を選定、日本文化を感じながら観て頂ける様に仕上げました。

4. 北海道は豊かな大地が織りなす自然遺産でも知られています。これらの要素はあなたの作品にどのような影響を与えていますか?

平本 健太&美智子: 今回われわれが出展した10作品のうち8作品が、UNESCOの世界遺産である知床半島の羅臼エリアで撮影されています。四季の移ろいがヴィヴィッドで季節毎に水中の光景が大きく変わるかの地での撮影は、まさに「一期一会」です。「同じ光景にはもう二度と出会えないはずだ」という撮影時の良い意味での緊張感が、作品に力を与えてくれていればいいのですが…

佐藤 晃&るりこ: 日本列島で北海道だけは冷帯(亜寒帯)気候に属するため、動植物分布においても本州と異なる北方系要素が多く含まれています。 氷河期時代北海道がサハリンを経てアジア大陸と繋がっているのに対して本州から九州までは大陸とは切り離された島でした。ブラキストン線(津軽海峡を通る<哺乳類・鳥類>動物相の分付境界線)の北側だけにいる動物は、夏と冬で見られる姿も変化する動物も多く季節の変化を動物で味わうことができるのも北海道の野鳥・野生動物の魅力です。

北海道で生息する キタキツネ・十字キツネ・エゾモモンガ・エゾクロテン・丹頂鶴・シマエナガは写真展に出品しております。

5. 今回の展覧会は北海道の多様な暮らしを彷彿させ、森から海への大自然の流れを感じさせてくれます。来場者にどのようなメッセージを伝えたいですか?

平本 健太&美智子: 水中写真を撮影していて一番気になることは、近年の気候変動とそれにともなう水温の上昇です。水温1℃分の変化は、陸上の気温10℃分に相当するほどの大きな影響があると言われます。事実、数年前には当たり前に見ることが出来たカラフトマスが大群で母川回帰するシーンが、2024年・秋の羅臼ではまったく観察されませんでした。他方、もう少し緯度が高くて水温が低かったサハリン南部は記録的なカラフトマスの豊漁だったそうです。このように,気候変動によって陸上はもちろん、水中の生態系が急速に変化しています。今回ご覧頂いた水中の光景が10数年後には無くなっているかもしれません。地球環境問題に関してわれわれが「出来ること」「やるべきこと」を考えながら、被写体と向き合っています。

佐藤 晃&るりこ: 森が本来の森の姿で生きる事が出来たら、海も本来の姿で生きる事が出来ます。森が本来の森の姿でなくなってしまったら海は本来の姿でなくなってしまいます。日本だけでなく世界レベルで豊かな自然環境を守るために人々は何をどうするか考えてみてはどうでしょうか?

6. 展示会のコレクションの中でお気に入りの作品はありますか?もしあるとしたら、その作品があなたにとって特別な理由は何ですか?

平本 健太: 今回の5点のなかで、一番好きなのが「ホタテの球体」です。この作品は、羅臼のダイビングサービス「知床ダイビング企画」を主催する著名な水中写真家・関勝則さんの作品を真似たもので、その意味でオリジナリティはありません。しかし、見渡す限りに生息する何十万匹というホタテ貝を円周魚眼という特殊なレンズで切り取ることで、この地球上に存在する小さなglobe(地球)として表現できたと思います。

平本 美智子: わたしが一番気に入っているのは、「晩夏 8月下旬 帰って来たカラフトマス」で、オスのカラフトマスが別のオスに大きく噛みついている作品です。水深50cm余りの浅い川に身体を横たえて出来るだけ気配を消し、マスたちが人(わたし)の存在を気にしなくなるまでじっと耐えた結果、撮影することが出来た一瞬でした。フォーカスが甘いのですが、それも臨場感に繋がっていると思っています。

佐藤 晃: 一番のお気に入りは雪の上で「ウトウト・・・・」するキタキツネです。近年住宅に縄張りを持つ(アーバンフォックス)が年々増加しております。環境的に問題視されておりますが、この顔を見ると普段の「嫌」な事を忘れ癒されてしまいます。

さとうるりこ: 北海道に住む人でもほとんど見たことのない黒い狐は背中に十字の模様があることが特徴と言われる「十字キツネ/crossfox」とピンクに染められた空の下で出会えた瞬間は心が震え無我夢中でシャッターを切ってました。キツネの中でも「最も位の高い神様」としてアイヌ民族から崇められていたそうです。

7. 北海道の季節の移り変わりは、あなたの作品制作にどのような影響を与えますか?

平本 健太&美智子: 沖縄では、最低水温(20℃強)と最高水温(30℃弱)の差が10℃もありません。しかし北海道では、エリアによっては最低水温が氷点下になるため最低と最高の水温差は軽く20℃を超えます。水温差が大きいということは、それだけ多様な生物に出会えるチャンスが大きいということです。たとえば2月はゴッコの抱卵、3月は流氷下潜水、9月はカラフトマスの母川回帰、10月はアイナメの抱卵など、季節毎に特徴的な光景が水面下に広がります。こうした季節毎のシーンひとつひとつを、大切に切り取っていきたいと思いながら撮影しています。

佐藤 晃&るりこ: 1年中森の中を歩いていると感じることがあります。春繁殖のために飛来する鳥、越冬のために飛来する鳥達が年々減ってきている様に感じます。温暖化の影響でしょうか?近い将来飛来しない鳥も出てくるのではと…心配です。年々変化する環境で森・林・公園で今出会える野鳥・野生動物達との距離感を保ちなが自然に生きる姿を丁寧に撮影しています。

8. その他の作品や、アーティストとしての活動はどこで見ることができますか?

平本 健太&美智子: 残念ながら二人とも、Instagramや500pxには作品をアップロードしていません。Facebook上では時々、作品を掲載しています。もしご関心があれば、Kenta Hiramotoあるいは、Michiko Takagaki で検索してみてください!

佐藤 晃&るりこ:

  • 木ニセコギフトショップ・円山動物園オフィシャルステーション(西側)で 蝦夷っちphotography(佐藤晃・さとうるりこ)の作品を展開しております。
  • 不定期ですが写真展も行っております。
  • 講談社:ふくろうの赤ちゃん 写真掲載
  • faura:2025年シマエナガ壁掛けカレンダー 写真提供

Instagram : Akira Sato / Ruriko Sato

Facebook : 蝦夷っちphotography

展示会情報

展示期間:2025年2月1日~3月31日

場所:木ギャラリー (木ニセコ ギフトショップの前)

入場料:無料(ホテル正面玄関からご入館いただけます)